キーワード: 観光、環境、持続可能。自然、文明
イースター島は南米大陸チリ共和国に属し、本土からは3000km離れたポリネシア文化圏に位置する。その文化圏はハワイ、ニュージ-ランドにまで及びポリネシアトライアングルと称される。イースター島の歴史は“地球の未来を予測する”と形容される。その理由は、周囲20km程のイースター島を地球史と比較すると、人類が誕生してから今日までの地球の辿る環境と似通っていることにある。地球は産業革命後、生活は飛躍的に向上したが、エネルギーシフトによる人口の急増、大量消費社会、そしてオゾン層の破壊と温暖化、食料不足や貧困の拡大を招いた。いつか地球上の資源は枯渇し、資源争奪戦(戦争)が起こり、文明を崩壊に導き、最終的には人類は滅亡する。この物語とイースター島の環境史が似通っていることにある。
一体、モアイ像とは何なのか?―モアイ像は、男性の顔と胴体を黒曜石で作られた石造彫刻で墓碑である。イースター島にポリネシア人が入植したのは5世紀頃、モアイはその直後から建造がはじまり18世紀までモアイ像を建造し続けた、しかし、ここでモアイ信仰は終焉を迎える。
イースター島の文明崩壊説はいくつかあるが代表的なものはシャレットダイヤモンドが唱える「人為的環境破壊が文明破壊を招いた」という説である。主な内容は、モアイ像建造に伴い、建設場所であるモアイ像を山から運搬するために、大量の丸太が必要(レールとして利用)となり、資材としての過剰な伐採われ、結果的に島の資源は急速に枯渇し、やがて資源争奪戦が起こり社会と経済の崩壊へとつながり文明も途絶えたという説である。その異説としてはナショナルジオグラフイックが発表したビンガムトン大学のカール・リポ氏率いる研究チームの記事である。イースター島から発見された武器は、人間に致命傷を与えるまでの武器は発見されず、戦争は起こらなかった。モアイ像建造の技術力を持っていた島民たちが、戦いで相手を殺すことのできる武器を作れなかったはずはなく、「作る理由がなかった」という、イースター島の社会は互いに競争しながらも、報復行為の応酬で大量殺戮に発展し、最終的には全滅するという最悪の事態に発展しないという説である。(資料:一部ナショナルジオクラフイックより引用)森林破壊には触れてはいないが戦争終焉説ではない。
また、イースター島を訪れた航海資料には、1722年オランダ海軍提督のヤーコブ・ロヘフェーンがイースター島を発見した際は、1000体を超えるモアイとその前で火を焚き地に頭を着けて祈りを捧げる島人の姿を目の当たりにする。―モアイ信仰が盛んである記述を残している。1774年に訪れたイギリス人探検家のジェームズ・クックは、壊されたモアイ像の数々を目にした、また、山肌には作りかけのモアイ像が放置されていたとしている。―モアイ信仰の終焉を思わせる記述である。この52年間の空白の期間に1200年あまり続いた、モアイの石造信仰に何等かの変化がおこったことには間違いない。
私が実際にイースター島を訪れた個人的な見解を以下にまとめた。「モアイ像が建造されはじめた6世紀頃は僅か3m程度と小型であった、しかし世代を受け継いだ文化は、やがて20mを超える巨大化していった」という話を島民から聞いた。私が思うには、おそらく、先祖をうやまう気持ちからモアイ像を立派なものにしたいという信仰が巨大化思考を創りだした。もしかしたら隣の部族より大きく建造するという見栄もあったかもしれない。そして、信仰の魂はモアイを大きく建造することで精神的に満ちていた。しかし、巨大化はモアイの運搬(丸太で滑らせて運んでいた)で森の木を切り倒し続ける量も増え、日々少しずつ失われていく森の減少とその影響は想像できるはずもない。もしかしたら、巨大化したことへの感覚がなく次の世代へと同じことを受け継いでいったのかもしれない。やがて、著しく森は失われ、孤島の厳しさは急速に環境を悪化させ森からの恵みでである食料や水は枯渇、既に森の再生は困難な状況にまでなった。人々が気付いたときには、森は戻らない。そしていつしか決断する考えが島民に生まれる、―島からの脱出である。ひとり、またひとりと天地(大陸)を求め島から脱出した。航海術が優れているポリネシアの人々なら十分可能である。島に残こると決断した人、出る気力のない弱者のみが残った、いずれにしても島で暮らすことを余儀なくされた、島民のコミュニティは弱体化し、文明も崩壊した。おそらく「争いが起こらなかったのではなく、争いが起こる前に多くの島民が島を去ってことが原因であった」のだろう。
このわたしの物語を確信したある光景がある、滞在中、集会所にもなっているミサを訪れた。島の人々みなこの日が待ちどうしい、何よりも教会で顔や肌、合わせてのコミュニケーションを大切にしている。それは、古代ポリネシア人の航海技術が六分儀や方位磁石を用いない、星を読み、波や風を感じ、伝承を信じ、チームを大切にし危険な航海を克服した「スターナヴイゲーション」のDNAが今も築かれている証であり、決して困難だからと言って、人を殺める文化ではなく人を大切にする温和な人達の姿があったのだ。
日々の生活の時間軸の中で、誰もが生活や文化、文明を失うことは想像していないだろう。また、今この時間にも世界中の森林が伐採されていることはわかっていても自分に直接的な影響が及ぶとも考えることはしない。自然の再生能力に要する時間より人間が資源を消費する速度が勝れば、いつかはイースター島の歴史を繰り返してしまう。現代社会で起こる、移民問題、温暖化、世界的人口爆発等、現在の人間にはこの課題から、地球から逃げる新天地はあるのだろうか。
ポリネシア人が移住してきた当時のイースター島は、チリサケヤシで覆われた緑豊かな島だったことが科学的に証明されている。人間の営みとは平和と自然なしには語れない。